isacom

マンガ・小説・アニメ・ゲーム等々の感想ブログです。(ネタバレ含みますのでご注意ください)

辺獄のシュヴェスタ 5巻感想

いさ子です。
初回の感想記事は「辺獄のシュヴェスタ 5巻」です。

 

f:id:isakoko:20170318114126j:plain


辺獄のシュヴェスタ
竹良 実 (著)
月刊!スピリッツ
出版社: 小学館

しょっぱなから5巻の感想になってしまいました。


※感想はネタバレ含みます、閲覧ご注意ください。

5巻までの流れをざっと追います。
魔女の子として修道院に入れられたエラとその仲間たちが
復讐や脱出、それぞれの目的を果たすため、
知恵を絞り、残虐と陰謀うごめく修道会の中で正気を保ちながら生き延びる--。
というのが大筋の流れです。

 

 


この漫画の魅力は、登場する少女たちの知略と勇気だと思います。
言葉で書くと簡単ですが、拷問や幻覚剤で正気を失う同年代の少女たち、
ムター(お母様という意味 少女たちをまとめる修道女)たちに監視され、
ムターの一言で即座に死ぬことになる…という過酷な環境の中で
「正気を保って生き延びる」ことは、まさに命がけの綱渡り生活です。

主人公エラは、治癒師の母を魔女として殺されました。
母は実母ではありませんが善良な人物で、命の大切さを身をもってエラに伝え、
優しく、時に厳しく向き合い、導いた、賢い人物です。
その母を、修道会・異端審問官は殺します。
最後まで正しくあろうとする意志さえも無残に踏みにじられ、
エラは復讐を決意します。
この時殺された母親の表情は、言葉にはできません。
人が人を殺すことの恐ろしさ、凄まじさが感じられます。

エラのように魔女として殺された人間の親近者の少女たちは、
「魔女の子」とされ修道会の中に集められ、次々と試練に立ち向かいます。
陰湿ないじめも、拷問もあり、救いようがなく思えますが、エラたちの強くまっすぐな意志が、何よりの希望として描かれます。

作中、エラの仲間テアが、同じ一位生にいじめられます。
一位生全体に「赤い夢を見たもの同士でしか話してはいけない」という噂が流れ、
夢をみたかどうかによるあからさまな区別や、「見た」とうそぶく人へのいじめが起こったのです。
テアもその一人で、取り残される恐怖から夢を見たと言いますが、嘘だとバレ、
いじめが始まります。

その中で 素っ裸で(風呂場だったから)虐めっ子をぶん殴り
「あんたの髪に毒グモが付いてたわよ」と
平然とやってのけるエラにはスカッとします!
しかし、エラも虐めの対象になってしまいました。
エラは根本的な解決のために動き出しますが、納得しきれないテア。


 -なんで私達がそんな知恵を絞らないといけないのかしら……
    変わるべきは人を虐めてる奴らなのに…

 -それは…私達のほうが強いからよ。

 -え?

 -標的を作ることで結束を生む。虐める側っていうのは、その便利な方法に
  真っ先に屈服したってことでしょ。
  虐げられてる人間のほうが、虐げる人間よりもよほどタフなのよ。


ぐっとくるシーンです。格好良すぎです。
そしてエラたちは、”一位生全体の誰も殺さず、悪人も出さず、
事態を収束”させます。陰口、密告、その後の拷問や処刑が日常になった中で、
見事な解決の方法です。それを極めて自然にやってのけたことが
素晴らしいです。エラたちが解決した、と明るみに出ることは
エラちが反逆者だとあぶり出されることに繋がる。
だからそれを悟らせず、真の主犯を晒すこともせず、
「ただ事態が風化しおさまった」ように集団を動かす彼女たちの
知恵と行動力はもう素晴らしいとしか言えません!
読んでる時には夢中で 頭いい!すごい! としか思ってないのですが、落ち着くと言葉になりますね。
振り返ってじわじわ感動してます。

5巻以前の感想ばかりになってしまいました。

ぜひ1~4巻も読んでください!

前置きが長くなりましたが、ここから5巻の感想です。


コルドゥラ!!!!!!!


もうそれにつきます…。
Kindle版のため、単行本より読むのが遅くなり、
待ちきれずにふっと感想を読み漁ってしまって、
コルドゥラが死ぬことは知ってしまった(ネタバレOK派の私が唯一、
知りたくなかったなーと思ってしまう情報でした…)のですが、
甘く見ていました。
お涙頂戴的な、さらっと死んじゃうのかな、と甘く見ていました。
ごめんなさい。
読み終わった後、頭はコルドゥラでいっぱいです…。


間もなく進級し、二位生になるエラたち。
エラは監督生ではなく処刑人に選出されます。少女たちの中から裏切り者、
不要な人物が出たとき、殺すための役割です。
要職であり、普段は食事が取れずに修道院の外で密かに狩りをしたり
虫や薬のない院の残飯を食べ、生き延びているエラたちにとって、
ある程度の自由や権限のある「処刑人」としての役職・立場は必要です。
しかし、前巻でジビレの腕を切り落としたエラは苦悩します。


 -処刑人をやれと…!?じょ…冗談じゃないわ…!!

 -私が断っても当然処刑は行われる…だとしたら…復讐のため…
   修道女に選ばれる「五人」になるためには…

 -いや違う…問題はそこじゃない!


ジビレはその行いにより罰として腕の切断を命じられました。
エラは、自分たちが生き残るため、ジビレを罠にかけ陥れていました。
もちろんエラが陥れたことは本人、ジビレしか知らず、
仲間も薄々感づいている程度。
エラは仲間を守るため、独断で行動したのですが、
それはジビレを陥れなければ、仲間全員が危険にさらされるからでした。

ジビレの腕の切断役を自ら志願したエラ。
エラだけはジビレの無実を知っています。
ジビレは決して善良な人物ではなく、悪人ともいえますが、
この件に関しては無罪であり、エラの企みによって腕を切り落とされます。
ジビレの腕を切断するにあたり、エラは斧ではなく、
医療用の包丁とのこぎりを使わせて欲しいと懇願します。
ムターが腕を切れというなら、腕以外は損ねないのが、私の忠誠だ と
表向きに立派な理由を掲げて、せめて命は奪わないようにと。

修道院の洗脳を受けていないエラにとって、ジビレの「処刑」は拷問でした。
生きた人間の腕を、麻酔もなく、そのまま切り落とす…。ぞっとします。
前巻での一場面の紹介です。


 -やりたくない…!

 -落ち着け。落ち着いて…。手早くやるんだ。
  どうすべきか考えて、ここへ来たんじゃないか。

 -やっと肉が。まだこれから、これから骨なんだわ、ああ‼︎
  これからすっかり骨を切らなきゃならない。

 -…果てしない…‼︎

 -こんなに死にそうに苦しんでるのに。長い…途方もない…

 -私はいったい、何をやっているのだろう…?
  何も、かも。生きるための。はずのものを。
  こんなにも、費やして。


殺さないための包丁とのこぎり、切断時間は短いが生き残る確率が低い斧。
どちらを選んでも地獄です。5巻でもこの話が出ます。
エラは二位生になり、処刑人になりました。

腕を切断される予定の少女タビタに、どちらがいいかを聞きますが


 -そんなこと言われたって、普通、鋸なんて選べないに決まってるじゃない…‼︎

 -黙って斧で、切れよぉお〜〜〜〜バカぁぁぁあ‼︎


ごもっともです。
この後、どちらかを選択すること自体をやめ、タビタを救ったエラたち。
エラたちが生き残るためには、タビタを斧で殺す方が簡単です。
でもそれをせずに、知恵によって人を殺さない方法で切り抜ける
”選択させられるのが当たり前”になっているのでなく、
いつも何か道はないかと考えるエラ達だからできたことです。

なんというか本当に頭下がります…。

こうしたことが今後何度もあるかもしれない「処刑人」になることは
エラにとってまさに断腸の想いだったことでしょう。

タビタ登場前の、エラが処刑人になると決めた時、
仲間達はエラが人を傷つけずに済むよう、
みんなで知恵を絞り協力しようと話していました。
もちろん焼け石に水程度になると思います。この修道会は剣呑すぎるので。
いつも死が、それも苦しみ抜く死が少女達を待っているから、
処刑人として、ずっと殺さないで済む策を考え続けるのは難しいことです。
でも彼女たちならそれができるかも知れないと思わせてくれました。
エラにとっても仲間の言葉が救いになったことは間違いないと思います。

そして話は変わり、仲間の中で唯一の三位生、コルドゥラ。
貴族の娘で聡明な彼女にも、過去に別の仲間がいました。
そのおかげで洗脳されず、これまで生き抜いて、エラたちを導きましたが、
三位生になっての試練「12留」は、彼女にとっても未知のものでした。
(キリストが処刑されるまでの道のりになぞらえ、
少女達はいくつもの試練を課される)
死亡記録を見て不審な死があることを事前に知った彼女は、
「12留」で何かが起こることを察し、エラたちに有事の際は
自分を拷問してでも何があったかを知るように、と
殺さずに苦痛を与える方法も伝授します。

10代の少女の「自分を拷問してでも」という決意、意志の強さ、
それは生半可なものではなく、自身も拷問をする側であり、
される側でもあった彼女の言葉だからこそです。
生きるためには必要という、ある種の情のなさ、聡明さに圧倒されます。

そして試練「12留」
体温と同じ温度の塩水に、五感を封じて体を沈める潜礼
よくここまで洗脳のための方法を人は考えるなと…。
感心します…ぞっとしないけど…。
そしてコルドゥラは幻覚を見ます。


 -私達はみんな、水でできているから、雨になってゆき、最後はひとつの海に…


この幻覚に身を任せれば、楽になれると思います。
間違いなく。これまでの彼女達の生き方は、あまりにも辛すぎる。
それでも


 -そんなキレイごと本当かしら?
  私たちには、拳もあれば言葉もある。薬とか儀式とかそんな方法で、
  わかり合う必要はないわ…‼︎


こう思う彼女の潔さに圧倒されます。
修道会に屈して生き残って欲しい…とも わずかに思いますが、茨の道を自分から突き進んでいく姿はとても力強いです。

でもそんなに苦しむ方に行かないでくれー!

しかし「拳」が出るあたりさすがタフネスだなと、面白かったです。
主人公達は本当にタフネス。


そして水から上がり、ついに修道院の陰謀を目の当たりにするコルドゥラ。
けれどここで、彼女が水面下で反逆していたことがバレてしまいます。
「見渡す者」という驚異的な記憶力・計算力をもつ、意志のない人形。
長い修道院の歴史の中で、少女達の中から何人か生まれた「見渡す者」は、
絶望と改心によって生まれるのではないか?という研究が行われており、
次の白羽の矢が当たったのはコルドゥラでした。

「12留」で幻覚に飲まれないように、足の裏に傷をつけていたコルドゥラ。
靴についた血が、反逆者の証明になってしまいました。

拷問され(ほんとに拷問ばっかだ…)投獄されながらも、
なんとか試練のこと、修道院の企みを伝えようと、うめき声をあげるコルドゥラ。
そこにエラがやってきます。壁の向こうから蜘蛛の系に葉をつけ、
小さな窓から垂らしたのです。エラがいることを確信したコルドゥラは、
正気を失ったふりをして、見たことを全て伝えます。


 -すぐそこに猟師がいるの…吠えたりしたら…お腹に石を…詰められるわよ…
   だから…お話は私がするわ…‼︎

 -ムター・ナターリエを欺くためには、整然と語ることはできない…
  でもエラならわかってくれるはず…あなたに…今夜見たことをすべて託すわ…‼︎

幻覚を見ているように、夢物語のように、すべてを語るコルドゥラ。
しかし傷を負いながら話し続けるコルドゥラを怪しく思い、
ムターが牢に入ろうとします。
エラは対峙するつもりでしたが…。


 -やはり仲間が!
 -逃げてたまるか…!外へ誘い出せば闇に目が慣れてる分こちらが有利…!
  見張りを殺して…コルドゥラを…

 -脚の腱を切られてるの!どの道、私を連れては逃げられない‼︎
  行って!私の命の意味を…あなたと一緒に持っていって…‼︎
  早く‼︎


この後コルドゥラは、仲間がエラだとばれた絶望により
「見渡す者」へと変貌していく様子を見せます。
感激し、近寄るムター。
しかしそのチャンスを生かし、コルドゥラはムター・ナターリエを刺殺します。
嫌っていた貴族時代の剣の稽古が、最後の最後に役に立ちました。


 -コルドゥラ、あなた…選ばれたのね、神に…え…!?
 
 -ここで暮らしていると…演技も…上手くなるものなのよ…


コルドゥラ!!!!!!!
もうかっこいいやら悲しいやらショックすぎるやら。
生まれた意味なんてない、人間は偶然生まれ、
生きた後に意味ができるといったコルドゥラ。
過去の仲間から引き継いだものを、確かにエラたちへとつないだコルドゥラ。

エラたちと仲間になったばかりの頃は、なんだろうこの人という印象でした。
それがまさか、ここまで印象深いキャラクターになるなんて。

表向きには悲しむこともできずに、エラたちはコルドゥラの伝えた
修道院の恐ろしい計画をなんとか外の世界に伝えようとします。
羊島に疫病を流行らせ、それを修道院に秘密裏にかき集められた、
禁忌とされる知識をもって解決し、それを神の奇蹟だとして、
神の威光により人々を統治する…という計画です。
科学や技術を広めるのではなく、すべてが神の奇蹟だとすることで、人を律する。

エラの仇である修道会の総長エーデルガルトは、世の中の救済を目的としています。
人がおのずから自分を律する世界にするためには、印刷術の普及の前に、
人々が無知なうちに救済を始める必要があると考えています。

この人はよく賭けをするなあと思っているのですが、
雷雨の日はあえて外に出て死なないか試したり
(自分が間違っているなら神に殺されるために)、
ヴァチカンの図書館の鍵を民衆の中に置いてみたり
(純金の鍵、売ればしばらく働かずに暮らせるものを放置して、
奇蹟を信じた人間の行動を確かめる)、そういったことを重ねてきていたので、
信仰によって人を律することができると確信していますが、
この人自身、狂信者ではないんですね。ある意味狂信者とも言えますが、
非常に歴史家的というか、合理主義、科学派な人だと思います。

神の名の下にとは言っていますし、修道女ですが、
現実的に考え行動し実行する、エラと同じタイプなんでしょうね。
知識を抑制することで防げる犯罪があるのは事実ですし、
教会とのやりとり、人材の確保についてはカリスマ性もあり、
統治者としての才能がとても高い。

そのエーデルガルトと、エラの対決という構図、一方的な悪がない、
知略によって目的を果たすというところが、この漫画の面白さです。
どちらが勝つか、非常に楽しみですが、次巻で最終巻らしいです…。
絶対買うけど、終わるのかー、どうなるんだー!


今回の感想は(大変長くなりました)エラ、コルドゥラメインでしたが、
他のキャラクターも十分魅力的です。
今一番怖いのはクリームヒルト…。

ぜひお手にとって読んでみてください。
鬱々とした気分の時にはおすすめです。
スカッとしますし、圧倒されます。これはある意味英雄譚です。